円城塔がヴァーリイが好きだとインタビューで言っていたのが気になって、ヴァーリイ傑作選を買ったのをずっと積んでいた。 読んでみて、円城塔って純文学の人なんだなーとあらためて思った。たまたまSFを題材にしているだけで、書きたいのはボーイミーツガールだったりするよね。
帯文もかいていたらしい。
まさかヴァーリイをご存知ない。何も失くしたことがないならそれでいいけど。
かっこいい。確かにそういう話だった。
逆行の夏 #
クローンの姉が月から水星に住むぼくらのところへやってきた。 ボーイミーツガールの瑞々しいジュブナイルSF。
人類が太陽系外に進出したシリーズものの一編で、八世界シリーズというらしい。 太陽系を開拓しきっていて新しい冒険は残されていないという虚無感が描かれているのも面白いが、特徴的なのはやはり、性転換が自由自在でカジュアルに行われていて、家族観がかなり変容しているところ。 ここまで進んだジェンダー観が1970年代に描かれているのはすごい。
主人公が姉のクローンでなぜか性別が違うという設定で、序盤から混乱させられるのが面白い。こういうわけわからなさはSFの醍醐味だよなー。だんだんわかっていく気持ちよさ。
水銀の湖を泳ぐシーンは美しかった。が、家族の複雑な話は正直ピンと来なかったな…
残像 #
目が聞こえない、耳も聞こえない人たちのコミューンの話。 ものすごくやさしくSF。題材からキムチョヨプの「マリのダンス」を思い出した。あっちはテロリズムな感じだけど… ヴァーリイとキムチョヨプ、けっこう近い雰囲気があると思う。
コミューンの文化はそのオープンで自由なところがヒッピーみたいだと感じた。 調べてみるとヴァーリイ自身がヒッピーだったようで、60年代後半のアメリカでヒッピーのムーブメントがあったらしい。
最後は衝撃的で今でも消化できた感じがしていないが、失うことでしか得られないものがある、ということなんだろうか。コミューンの進んだコミュニケーションを決して理解できない悲しさと、それでも少しでもそこに近づきたい思いからあの選択をしたピンクを思うとなんともいえない気持ちになる。 一応ハッピーエンドではあるのか…?
ヴァーリイ作品は美しく感傷的で、間違いなく傑作なのはわかるんだけど、それを評価できる繊細さを自分は持ち合わせてないなあと感じた。生きやすさとのトレードオフ。