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『春にして君を離れ』感想

アガサクリスティーの『春にして君を離れ』を読んだ。 自分の思う「正しさ」を他人に押し付ける性格の主婦、ジョーンが列車の長旅で自身の半生を回想するうちに過去に違和感を覚え始め…という話なのだが、自分の母が主人公に近い性格なので結構ダメージがあった。 自分自身、もしくは家族に主人公みたいな性格の人がいると死ぬほど刺さる作品だと思う。 ミステリの手法を用いて「他者への干渉」という人生の普遍的なテーマを扱った名作。

自分の場合、他人に干渉しなさ過ぎて(本作の場合、夫のロドニーにあたる)、それはそれでよくないなあと感じた。結局、ロドニーはジョーンのことを諦めるとともに自分の人生もあきらめているわけだし。 「来るもの拒まず、去る者追わず」のポリシーは、結局のところ他人に興味がないだけと言われると何も言い返せない。 他人を変えようとするのは”愛”ゆえなんだよね。歪んだ愛はめちゃめちゃ迷惑なわけだけど。

で、クリスティさん、とにかく小説がうますぎる。こんなにうまく主婦の心理を描写できる作家はなかなかいないんじゃないかな。 主人公が最後にけろっと忘れて元に戻るのもリアルだ。人は簡単には変われない。かなしいね。 この作品を読むと、クリスティは推理小説というジャンルじゃなくても余裕で大成していたんじゃないかという気がしてならない。

いろいろ感想を漁っていると、「ミステリじゃないクリスティー作品」という言及をよく見かけたけど、自分の中では本作は完全にミステリだと思う。 というのも、「主人公が自分なりの真実を追求する物語」が自分のミステリの定義なので、殺人事件が起きず探偵が登場しなくてもミステリなのだ。 アンチミステリとかいろいろ読んで自分の感覚が歪んでるだけかもしれない。

ミステリとしては、主人公の性格から「真相はこうなんじゃ…」という予想がだんだん当たっていくのが逆にハラハラして気持ちよかった。 が、人によっては深刻なダメージを受けて「もうやめてくれ~」ってなるんじゃないだろうか。

精神的ダメージがえぐいけど、なんか人に勧めたくなる作品。