姉SFとは聞いてたけど、調べたら「姉」と言うワードを1000回近く使っていてうける。 理不尽な天才物理学者の姉に気弱な弟がめちゃくちゃにされるシスコン&ブラコンなハードSFで、ストーリーはかなりラノベ。
「定理を証明することで世界が変わる可能性」っていう、イーガンの万物理論みたいな話してんなーと思ったら、あとがきでイーガンの話をしまくっていてよかった。万物理論をかなり意識して書いたらしい。ハードSF作家でイーガンの影響を受けてない人はいないんじゃないかな。みんな大好きグレッグ・イーガン。
著者の高島さんは東大物理学科&東京藝大卒という異色の経歴で、今はSF考証を仕事にしているらしい。今回、水星の魔女のSF考証とノベライズで知って興味をもった。
実際、一般の人は知らないけど重要な定理(ネーターの定理とか)の話をしていて、この人たしかに物理学徒だなーと。こういう地味な部分がハードSFの説得力をもたせるよな。
とはいえ、小説として面白かったかと言うと正直かなり微妙だったかな。 SF部分が抽象的すぎてなかなか登場人物の行動と結びつかなかったり、具体的なイメージをしずらい感じがあった。
擬似理論をひたすら説明するような文章が多くて、これ小説である必要あんのかなーと。知性定理のアイデア自体は面白いんだけど… それによって物語がどう動くか、というのが弱かった気がする。 でもそれをやろうとするとだいたいセカイ系になっちゃうしなー。
この辺はハードSFの難しさというか、二話目からは面白いハードSFの条件ってなんなんだろうなーって考えながら流し読みしてた。
物理出身の人がやたら抽象的な話をしたがるの、気持ちはわかるんだよな。 面白い小説の法則として、抽象的な話と具体的な話はやっても3:7くらいの割合が限度じゃないかなと思ってる。
小説(というか物語全般)って具体的な話を通して抽象的な話をするものだと思うので、抽象的な話ばかりだと読者は置いてけぼりになってしまうし、小説である意味がなくなってしまう。
というか万物理論の凄さをあたらめて実感した。かなりの割合で小難しい抽象的な話をしているのに面白い。あれはなんなんだろうな…
AC理論(とかいう陰謀論)がいいフックになってるのと、人工島ステートレスのサイバーパンクな雰囲気、反知性カルトが蔓延ってる世紀末的世界、豪華に投入され続けるSFガジェット… いろんな要素が絡み合って重厚な読書体験を作り出している。
そう考えるとランドスケープと夏の定理みたいな抽象理論の思弁SFは長編向きなのかもしれない。