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『フォン・ノイマンの哲学』感想

20世紀の天才たち
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フォン・ノイマンの哲学を読んだ。ノイマン自身も面白かったけど、同時代の数学・物理学者のエピソードも面白かった。 久しぶりに放浪の数学者エルデシュの逸話を読んでかっけ~となったし、天才だが人格に難があるシラードに対しての「シラードは冷蔵庫に閉じ込めておいて、アイディアが必要になった時だけ出せばよい」というジョークには笑った。 ほかにもゲーデルやチューリングなど、20世紀の天才数学・物理学者は面白エピソードに事欠かなくてすごい。

徹底的な経験主義
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ノイマンとゲーデルにここまで深い関係があったのは知らなかった。 ノイマンは数学基礎論でも業績を上げていたが、ゲーデルが不完全性定理を証明したことであっさりと負けを認め、以降いっさい数学基礎論に立ち寄らなかったという話は面白い。

さらに興味深いのが、ゲーデルは人間の経験から切り離したところに、数学的厳密性という絶対的な概念が存在するという「数学的実在論」を信じて疑わなかったのに対し、ノイマンはあくまで数学は人間の経験と切り離せないという「数学的経験論」を主張していたってところ。

ノイマンは幅広い分野でたぐいまれなる業績を残しているわけだけど、経済や心理学などの応用分野に多くの貢献があるのは「数学は現象を記述するための道具にすぎない」という考えだったからなのかなーと思う。

たまにSNSで「実数は存在しない」と主張する人がいて馬鹿にされていたりするが、あれは誰も”1”という数字の実在をその目で見た人がいないという意味では正しい。

実数や虚数など完全に抽象的な数学的な概念によって現実世界をうまく記述できているのは実は当たり前ではないということを、多くの人が見過ごしがちだと思う。

世界をよりうまく記述するために、いつか数学以外の全く新しい概念の道具が必要になる可能性も不自然じゃない。

ノイマンという人間、感情について
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ノイマンはよくジョークを言って周囲を和ませたが、他人の感情に立ち入ることはしなかった、というのは個人的にはかなりわかる。 人の感情がわからないんじゃなくて、知ったところでどうにもならないのであえて理解しようとしない、という立場。 自己防衛なんだろうなーと思ったりもする。実際かなり楽だし。

この本、「人間のふりをした悪魔」という副題がついているが、ノイマンは問題を解くことにしか興味がなかっただけなんだと思う。知的好奇心だけに生きた人。

「悪意のない悪が一番たちがわるい」という意味なら、その通りだと思う。