メインコンテンツへスキップ

乾くるみ『スリープ』感想

読書会課題作。乾くるみはJの神話を読んで以来なので2作目になる。

大学で推理小説研究会に入ったとき、先輩から「メフィストのJFKを読め!」と言われて読んだのが懐かしい。 “メフィストのJFK"とは歴代メフィスト賞受賞作品の『Jの神話』『すべてがFになる』『Kの流儀』のことで、無理やり勧められるだけあってどれも衝撃的な作品(Kの流儀に至ってはミステリでなく極真空手の学園小説)だったし、メフィスト賞作家にハマる明確なきっかけになった。とはいえ、どぎつすぎるので自分は人には決して勧められないけど。

で、『スリープ』なのだが、乾くるみがどういう作風なのか知っていたのもあってネタにはわりと早い段階で気づいてしまった。だからといって面白さが半減したとかそういうことは全然なく、伏線の貼り方は丁寧で見事だったし20年前に書かれた2036年の未来予想は面白かった。

とはいえ全体的な作品の印象は「トリックに凝ったB級小説」だ。物語に現実感がないし明らかに無駄な文章が多い。アリサがカルト宗教にハマるきっかけとか「そうはならんやろ!」って心の中で突っ込んだし、<科学のちから>メンバーのアメリカでの呼び名(鷲尾まりん=マリリン・ワッシャー、羽鳥ありさ=アリシア・ハドリー、戸松鋭二=エイジ・トーマス)もぜったいウキウキで書いたとしか思えない。

一番印象に残った(笑った)文章は

「アメリカにね、ネーションズ・トーラっていう団体があってね」と唐突に語りだす。要美は一瞬どきりとした。中学時代のあだ名が「ねーしょん」だったのである

要美(いるみ)だからイルミネーションで「ねーしょん」。話と全く関係ないしどうでもよすぎる。あと"ぬくい いるみ"は乾くるみのアナグラムになっている。だからなんなんだ笑。

こういう「やりたいからやりました笑」みたいなのがすごく当時のノリなんだろうなと思った。昔はトリックさえちゃんとしてればあとは何でも良かったのかもしれない。

逆に最近のミステリは文章も洗練されている印象がある。そんなに読んでないからわからないけど、最近はトリックはあくまで味付けでナラティブを重視しているイメージ。

久しぶりに頭からっぽでサクっと読めるミステリの長編が読めて楽しかった。