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『本の背骨が最後に残る』感想

読書会の課題作。斜線堂ファンのプレゼンに愛がこもっててすごく良かった。

斜線堂作品は「夏の終わりに君が死ねば完璧だったから」「私が大好きな小説家を殺すまで」「恋に至る病」の初期強感情三部作(?)は読んでいて、「エモい関係性のオタクなんだな〜」という印象を持っていた。

本の背骨、全編を通して痛みや残虐性に美しさを見出していて最高に趣味が悪い(褒め言葉)。

「本の背骨が最後に残る」「本は背骨が最初に形成る」
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めちゃめちゃエンタメミステリしてる。 詭弁バトルを繰り広げるのは神弁護士ドラマのリーガル=ハイを思いだした。 オーディエンスを納得させることが第一で真実は二の次という価値観。

ミステリというジャンル自体、探偵の独りよがりの推理を周りに納得させるものだと思ってる節があるのでこういう話は好き。

少し脱線するけど、小説の解釈違いは読書界隈ではあまり起こらない印象だが、アニメとか漫画の界隈ではキャラの解釈で戦争が起こったりしてるらしい。 人それぞれの思い描く理想が存在するんだろうなと想像する。そういう意味では二次創作バトルとでもいえるかもしれない。

「死して屍知る者無し」
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宗教的な村っぽいけど、コミューンの真相が全く明かされないのがこわさを引き出していて良かった。 “転化"が"コピー"だったらそういうアイデンティティネタのSFはわりとあるよな〜。

「ドッペルイエーガー」
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こういう分かり合えない話は好き。まあ婚約者が自分のコピーを虐めてるのは流石に引くわ…

「痛妃婚姻譚」
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本当に救いがない(笑)。これは特に初期作品っぽい関係性のエモさが出てたように思う。 幻想的で耽美な雰囲気がよかった。

「金魚姫の物語」
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斜線堂有紀はとにかく理不尽なシチュエーションが好きなんだろうな。 テッド・チャン『楽園とは神の不在なり』にインスパイアされて『楽園とは探偵の不在なり』を書いたというのは知っていたのでなるほどね〜となった。 それにしても降涙、現象としてあまりに地味すぎる。

「デウス・エクス・セラピー」
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一番完成度が高いと思った。序盤のそそるシチュエーション、どちらが本当のことを言ってるのかわからないハラハラ感、ラストのSF的回収。 すごくきれいにまとまってる。

まとめ
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斜線堂さんはSF、ミステリ、恋愛、幻想…と色んなジャンルが書けて芸が広いですね。あと本作は格調高い文体で書かれていてそこもすごいなと思った。なんでもできちゃうとんでもない作家だ…

「痛みや残虐性に美しさの価値を見出す」という点で飛浩隆『グラン・ヴァカンス』を彷彿とさせた。残酷さを凝縮してできた宝石って感じの凄まじい傑作。

デウス・エクス・セラピーが過去改変バケーションだったり、ドッペルイェーガーがVR空間で自分の分身を虐める話だったりなのが特にグラン・ヴァカンス感あるなーと思ったんだけど、どうなんだろう(もともと初収の「異形コレクション」のお題が"バケーション"だったらしいので違うかも)。

グラン・ヴァカンス、有名な傑作SFだし斜線堂有紀も読んでいるんじゃないかな。