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『お前の彼女は二階で茹で死に』感想

とにかく趣味が悪すぎるとしか言いようがない。本当に人を選ぶ小説。

白井作品を全作読んでいる訳ではないが、この”茹で死に”はトップクラスで白井智之特有の趣味の悪さが出ている。 世界はゲロやクソや体液にまみれ、主人公の倫理観は終わりきっている。

いったい誰が好き好んで「股間から油が出る奇病にかかった青年を監禁し、その油を利用した料理を提供する中華料理屋で起こる殺人事件」が読みたいんだよ。しかも隣村では「肛門に金属製の球を入れると宇宙と交信できる」という教義のカルト宗教が蔓延しているとかいう…もうおしまいだ…

一方で、特殊設定における多重解決ミステリの完成度においては本当にレベルが高く、推理に無駄なものはない。 先述の意味不明で悪趣味な要素までもパズルのピースとして完璧に機能している。素晴らしい…

それにしてもレイプ魔が犯した相手が誰だったかによって真相が決まる推理小説って、なんでそんなことが思いついてしまうんだよ…(ドン引き)

白井ミステリ、高品質な本格推理を楽しむためには悪趣味な汚いグロ描写や胸糞悪い話を読まなければならない、という謎な状況が面白い。爆笑しながらも、なぜおれはこんなものを読まされているんだ…と不思議な気分にさせられる。この感覚は唯一無二。

それ故に人には全く勧められないのだけど…

本作はオチがひたすらに虚無で、そこも好きなポイント。 本格ミステリーはつまるところただのパズルであって、それを利用して何らかのメッセージを持たせる必要はないというエンタメ的な振り切りを感じる。

「本格ミステリは人間が描けていない」は昔から言われている批判だけど、そこがむしろ本格ミステリの良さなんだよな、と個人的には思っている。

倫理観や人間性を排除した、常識にとらわれない発想で解かれるパズル。その性質こそが本格ミステリの真骨頂だと思う。

そして、その理想に最も近い作家が白井智之なのだと。